PoC/プロトタイプ開発を技術的負債にしない! スピードと拡張性を両立させ、本開発の成果に繋げる3つの勘所
この記事は「BEMA Lab Advent Calendar 2025」の2日目の記事です。
※本アドベントカレンダーの2日目の投稿となります。
はじめに
皆さんこんにちは。株式会社メンバーズの池田です。
メンバーズに入社以来、SaaS型プロダクトの新機能開発や運用保守に長く携わってきました。
新しい機能開発は、常に「ユーザーのニーズを本当に満たすのか?」「技術的な実現性は高いか?」という不確定要素を伴います。これを見極めるために実施されるのが PoC(概念実証) や プロトタイプ開発 です。
しかし、「スピード重視」で作られたプロトタイプが、そのまま本番環境に移行され、結果的に「技術的な負債」を生み出し、後の改修コスト増大やリリース遅延に繋がるケースも少なくありません。
本記事では、私が担当した「外部の基幹システムとのAPI連携」プロジェクトなどの経験に基づき、PoCを成功させ、かつ本開発へスムーズに繋げるための「勘所」を、ビジネス視点と技術視点の両方から解説します。
1. ☝️ 勘所その1: PoCは「ニーズの解像度を上げる」ための手段
多くのプロジェクトは、「〇〇を改善したい」「〇〇ができたら良いはず」といった漠然としたニーズからスタートします。PoCの最も重要な役割は、このニーズの解像度を上げ、「本当に顧客の価値に繋がるのか」を早期に検証することです。
実録:漠然としたニーズを具体的な成果に変える
私が経験した「外部基幹システム連携PJ」は、「とある外部基幹システムとの連携をいい感じにしたい」という極めて曖昧な要望から始まりました。
- 初期の対応: 漠然としたニーズを元に、すぐに本格開発に入るのではなく、外部基幹システム調査、既存システム調査、類似事例調査を経て、まずはプロトタイプ(最低限の機能)を作成。
- 早期の価値検証: 開発チームだけでなく、ビジネスサイドを巻き込み、プロトタイプを用いた機能プレゼンテーションを実施。この早期のフィードバックによって、「この連携方法であれば顧客が求めている機能を満たせる」という確信を得られた。
- 結果: この機能がリリースされた後、「この機能があったから新規で契約が取れました」という声をいただき、営業成果へ貢献。
💡勘所1のまとめ
- PoCは開発のステップではなく、ビジネス価値を検証するステップ。
- スピード重視でプロトタイプを作り、ユーザーやステークホルダーからのフィードバックを得る。
- 手戻りのリスクを減らし、早期にビジネス的な「当たり」を見極めることが最優先事項。
2. ⚙️ 勘所その2: スピードと拡張性を両立させる設計の判断基準
PoCはスピードが命ですが、「どうせ捨てるコードだから」とすべてを雑に作ってしまうのは危険です。なぜなら、PoCが成功した場合、そのプロトタイプが本開発のベースになることが多々あるからです。
経験談:速度重視の中でも「残すべきもの」を見極める
外部基幹システム連携PJでは、「なるべく早期でのリリース」を求められていました。しかし、その中で今後の拡張性を考慮する重要性を痛感しました。
- 直面した課題: ビジネスサイドからの要求拡大に伴い、プロトタイプ実装時点から設計を見直したい箇所が生じたが、リリースの制約から手を入れる余裕がなかった。
- 学んだ教訓: 速度重視のPoC段階においても、拡張性をしっかりと考慮した設計の重要性を再認識した。
🚀 最低限確保すべき「拡張性」の領域
特に、以下の領域はPoC段階からある程度の品質と拡張性を確保することが、結果的に全体の開発効率を高めます。
- 外部連携 I/Fと認証: 外部サービス(外部基幹システムなど)とのAPI連携に関わる部分は、後から変更が効きにくいため、認証・認可方式やI/F設計は慎重な実施を。
- コアなデータ構造: アプリケーションの中核となるDBテーブル設計は、安易に変更すると多くのコードに影響が出るため、最低限の拡張性の確保が必須。
- 責務の分離:既存システムが抱えていたFat Controller(一つのControllerにロジックが集中しすぎている状態)の問題を教訓に、ロジックと責務の適切な分離を実施。これにより、テスタビリティが高まり、将来的な機能改修の効率化に繋がった。
💡 勘所2のまとめ
- PoCだからといって「すべて捨てるコード」と割り切る発想は避けるべき。
- 将来の技術的負債を回避するためには、「ビジネス価値に直結するコアな部分」と「外部との境界となるI/F」に、本開発に活きる最低限の拡張性を確保することが鍵となる。
3. 🌐 勘所その3: PoCの成否を分ける システム外部の制約を見極める「事前調査力」
外部サービスとAPI連携を行うプロトタイピングでは、単に機能を繋ぐだけでなく、システム外部の制約やルールを早期に把握することが必須です。
経験談:連携プロトタイピングにおける「見落としがちな制約」の洗い出し
外部基幹システム連携PJを通じ、本開発のボトルネックになり得る外部サービス連携の重要なチェックポイントを具体的に把握できました。
- 認証・認可方式の整理: サービスがサポートする認証・認可方式(OAuth 2.0など)の理解と、その方式が自社のセキュリティポリシーに適合するかどうかの事前確認の実施。
- APIリクエスト上限の把握: 外部サービスのレートリミット(APIリクエスト上限)を事前に徹底的に調査し、自社システムの利用頻度と照らし合わせる。これがボトルネックになる場合は、プロトタイプ段階からキャッシュ戦略の検討を。
- 利用料金の整理: APIの利用料金や、想定されるデータ量に応じたコストを初期段階で把握し、ビジネス的な採算が取れるかの検証。
これらは機能の実装に入る前の調査で判明すべき事項であり、PoCの成立そのものに関わる重要な要素です。
💡勘所3のまとめ
- 外部連携を含むPoCでは、「システム外の制約」(利用規約、レートリミット、コストなど)が、実装以上に大きなボトルネックになる可能性がある
- 技術的なフィージビリティ(実現可能性)だけでなく、ビジネス的なフィージビリティも早期に検証することが重要。
結びに:PoCを「成功」で終わらせず「成果」に繋げるために
PoC/プロトタイプ開発は、「どれだけ速く動くものを作るか」だけでなく、「どれだけ速くビジネス的なフィードバックを得るか」、そして「その成果をいかに次の開発へスムーズに繋げるか」が問われます。
私が多くのプロジェクトで学んだのは、事前の準備(不確定要素の洗い出し)、ビジネスサイドとの密な連携、そして最低限の拡張性を意識した設計判断の重要性です。
これらの「勘所」が、あなたのチームのPoC/プロトタイプ開発の成功、そして一過性の成功ではなく、持続的なビジネス成果に繋がる一助となれば幸いです。
この記事を書いた人

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