【第5回:サーバー解体研修】日本CTO協会主催 新卒エンジニア合同研修レポート
はじめに
クラウドコンピューティングが当たり前となり、インフラストラクチャがコードとして抽象化される現代において、皆さんは物理サーバーについて深く考える機会を持てているでしょうか?日々の開発業務の中では、AWSやGoogle Cloudなどの画面越しにリソースを操作することが多く、その裏側で実際に稼働しているハードウェアの存在を意識することは意外と少ないかもしれません。
今回、私は日本CTO協会が主催する新卒エンジニア合同研修に参加し、第5回目のテーマである「サーバー解体研修」を体験してきました。
普段は絶対に触れることのできないエンタープライズ向けの巨大なハードウェアの内部構造を、自分たちの手で実際に解体しながら学ぶという、非常にエキサイティングで貴重な機会でした。
すべてが仮想化されたクラウド時代だからこそ絶対に知っておきたい、そんな内容を研修で得た学びを交えつつ、現場の熱量と共にお届けします。
開催場所GMOインターネットグループ第2本社 シナジーカフェ「GMO Yours・フクラス」
場所提供:GMOインターネットグループ
GMO Yours・フクラス のエントランス
GMOペパボによる「物理サーバーの運用とメリット」
最初の講義では、GMOペパボの馬崎 裕二様から、同社における物理サーバーの歴史と運用インフラの裏側について、大変興味深いお話を伺いました。
GMOペパボの歴史は、最初のサービスである「ロリポップ!レンタルサーバー」の提供から始まり、現在に至るまで長きにわたり自社インフラを運用しています。現在もサーバー向けCPUとして高性能なIntel Xeonを活用し続けていることが紹介されました。
お話の中で最も印象的だったのは、「物理サーバーとクラウドサービスは決して対立する概念ではなく、パブリッククラウドと併用して適材適所で活用していくものである」という考え方です。普段利用している便利なクラウドサービスも、最先端のAI技術も、その末端の基盤を支えているのは強固な物理サーバーに他ならないという、当たり前でありながら忘れがちな事実を再認識しました。
物理サーバーの自社運用
物理サーバーを自社で運用することには「自分たちのやりたいことに寄り添いやすい」という絶大なメリットがあります。例えば、Tシャツなどのオリジナルグッズを作成・販売できるサービス「SUZURI」では、ユーザーの画像データを大量に扱う特性があります。そのため、写真、アルバムを共有できるサービス「SUZURI アルバム
」では、18台のストレージと約400本ものHDDからなる超巨大なストレージシステムを独自に構築して運用しているそうです。あえてメガクラウドに依存しない最大の理由は、データ量の増加に伴う高額なクラウド利用料を抑えるというコスト面にあります。
さらに、クラウド側の予期せぬ仕様変更による影響の回避や、大規模障害発生時のリスクコントロールといった運用上の強みも考慮されています。これにより、外部の制約に縛られることなく、自社サービスの要件に完全にフィットした、柔軟でコストパフォーマンスの高い構成を実現しています。
インフラエンジニアが直面する運用のリアル
さらに、インフラエンジニアとしての運用のリアルな実態についても赤裸々に語っていただきました。モノづくりの楽しさや工夫次第で劇的なコスト削減に貢献できるやりがいがある一方、膨大な物品管理や導入スペック選定に伴う責任の重さ、機器の老朽化対策など、苦労も絶えないとのことです。
特にハードウェアの故障については、「壊れやすい特定のパーツ」や「ロット(生産時期)による故障率の違い」に加え、「梅雨時は湿度の影響でパーツが壊れやすい」といった季節要因まで存在するとのことです。
これは物理機器と日々向き合っている現場ならではのリアルな悩みであり、非常に驚かされました。
デル・テクノロジーズによる「サーバー基礎講座」
続いて、世界的なサーバー提供会社であるデル・テクノロジーズの桑田 海蔵氏より、サーバーの基礎知識と物理的な構造についての講義が行われました。
サーバーとは「データやサービスを提供するためのハードウェア」そのものを指します。
サーバーの筐体には大きく分けてタワー型とラック型が存在します。その中でもラック型が主流であり、今回の研修でもラック型サーバーを実際に解体しました。
講義では、システムを構成する主要パーツそれぞれの重要な役割について、以下のように学びました。
主要パーツ | 役割 | 補足 |
CPU | 人間でいう「脳みそ」 | サーバーの性能を語る上では、
|
メモリ | 主記憶装置として機能 | ここの容量が不足すると |
ディスク | メモリに展開されていない永続的なデータを | 近年はHDDに代わりSSDが |
ネットワークI/F | サーバーを別のサーバーや | 別名:ネットワークアダプター |
アクセラレーター (GPU) | CPUだけでは処理しきれない | 大量のデータを 現在では |
さらに、これらの高性能なパーツを安定稼働させるための、サーバー特有の付加価値として以下の2つの例が挙げられました。
効率的に熱を逃すためのサーマル設計(緻密に計算されたバランスの良いエアフロー設計)
遠隔からサーバーの状態を管理・制御するシステム(iDRACなど)
サーバー解体ワークの体験
講義で基礎知識をしっかりと頭に入れた後は、いよいよ本日のメインイベントであるラック型サーバーの解体ワークです。これまでソフトウェアのコードばかりを見てきた私にとって、重厚なハードウェアのカバーを開け、その内部に直接触れることができるというのは、非常にワクワクする体験でした。
インターフェースとストレージの接続
カバーを外して内部を覗き込み、まず目に飛び込んできたのは、フロントパネル付近にあるインターフェース群とストレージの構造です。CD・SDカード・USB・大容量のSSD(ストレージ)といった各コンポーネントが、マザーボードや専用のバックプレーンに対してどのように物理接続され、高速なデータ通信を実現しているのかを視覚的に理解することができました。
ケーブルの取り回し一つをとっても、省スペースかつメンテナンス性を考慮した設計になっていることがわかります。
CD・SD・USBの各インターフェースとSSDが接続されている内部構造
冗長化された電源モジュール
サーバーの生命線とも言える電源の内部構造も詳細に確認しました。今回解体したサーバーには、大容量の750W電源モジュールが2台並んで搭載されていました。これは決して無駄に電力を消費するためではなく、万が一稼働中に片方の電源が故障したり、電力供給が途絶えたりした場合でも、もう一方の予備電源が即座に電力を供給し続けるための「冗長化設計」です。
これにより、致命的なシステムダウン(停電)を未然に防ぐことができます。24時間365日の無停止稼働が求められるエンタープライズサーバーならではの、極めて堅牢な安定稼働の仕組みを目の当たりにしました。
750Wの電源が2台搭載され、冗長化された電源モジュール
計算性能を支えるCPUと冷却システム
さらにサーバーの中枢へと進むと、巨大なマザーボード上に2基のチップ(CPU)が配置されているのがわかります。
巨大なマザーボード上に配置された2基のチップ(CPU)
このようにデュアルCPU構成にすることで、以下のような役割を持ち、サーバーの能力を直接的に倍増させています。
絶対的な計算性能の向上
サポートできるメモリ最大容量の増加
システム拡張性の強化
そして、講義で学んだ「サーマル設計」の要を実際に確認することもできました。超高速で演算を行うCPUは莫大な熱を発するため、そのままではすぐに熱暴走を起こしてしまいます。そのため、チップの熱を素早く吸収する巨大な金属製のチップ用ヒートシンクがマザーボード上に鎮座しており、その熱を強力な外部ファンが一気に筐体外へと排出する仕組みになっていました。さらにヒートシンクを取り外してみると、チップとヒートシンクの密着面には、熱伝導率を高めて効率よく熱を逃がすためにCPUグリスがしっかりと塗布されていました。ソフトウェアだけでは解決できない「熱」という物理法則に対する、緻密で泥臭い対策を実感した瞬間でした。
チップの熱を吸収するヒートシンク
さいごに
今回の「サーバー解体研修」という貴重な体験を通じて、私たちが普段クラウド上で何気なく、そして意識することなく消費しているコンピューティングリソースが、実際にはどれほど高度で複雑な物理的コンポーネントの集合体によって支えられているのかを、五感を通して深く理解することができました。
現在、そしてこれからのシステム開発において、クラウドネイティブなアプローチやサーバーレスアーキテクチャが主流になっていくことは間違いありません。しかし、その根底で動いているハードウェアの制約(CPUの演算能力の限界、メモリの枯渇、ストレージのボトルネック、そして物理的な熱問題など)や仕組みを正しく知っているか否かは、エンジニアとしての設計能力に大きな差を生むと確信しています。ハードウェアの限界を知ることは、より堅牢で、スケーラブルで、かつコスト効率の高い最適なソフトウェアアーキテクチャを設計するための強力な武器になるからです。
この研修で得た「低レイヤーの視点」を今後の大きな糧とし、単にコードを書くだけでなく、アプリケーションからインフラ基盤、そしてその先の物理サーバーに至るまで、技術の全体像を広範囲に見渡すことができるような、現場で真に頼られるテクニカルディレクター(TD)へと成長していきたいと強く決意しました。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
この記事を書いた人
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