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(最終回)スクラムマスターが語るKPTの課題、なぜKeepからTryが出ない?#3 成果物だけではない、ふりかえりの真の価値

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はじめに

こんにちは!メンバーズでスクラムマスターをしている大和です。

この記事は、連載「スクラムマスターが語るKPTの課題、なぜKeepからTryが出ない?」の第三回になります。

さて、ここまでは一貫して「KeepからTryを出す」ことについて考えてきました。

第一回では、私たちが「失敗から学ぼうとする」のには慣れている一方、「上手くいったことから何を学べるだろう?」と考えることに、それほど慣れていないのかも?という仮説を立てつつ、Appreciative Inquiryをきっかけに、Keepは「継続するもの」であり、「探究するもの」でもあるという考えにたどり着きました。

そして第二回では、その探究を実際に行うための実践的な「問い」について考えてみました。

無事「KeepからTryが出ない!」という最初の悩みに対して、ひとつの答えを出せたように思います。 ……なのですが、最後に、ここまで考えてきた「Tryを出すことの重要性」を、あえてひっくり返すような問いについて、考えてみたいと思います。

そもそも、ふりかえりの中でTryを出すことって、そんなに大事なんでしょうか?

※第一回、第二回は以下からご覧ください!

Tryが出なかったふりかえりは「失敗」なのか?

ふりかえりの最後にTryが並ぶと、なんとなく安心します。

チームで「次はこれをやってみよう!」というアクションがいくつか出ている。 検証したい内容や、計測方法、どんな未来を目指すものなのかまで具体的に整理でき、チームは意気揚々とネクストアクションが書かれた付箋をTryのエリアに移す。

ここまでできたら「よし、文句なしで良いふりかえりができた!次回のスプリントも頑張ろう!」って思えますよね。

逆に、KeepやProblemについてたくさん話したのに、具体的なTryがほとんど出なかったときは「あれ、今日のふりかえり、意味あったのかな?」と少し不安になったり......

こうした経験が、少なからず皆さんにもあるのではないでしょうか? (私はあります!何度もあります!)

スクラムマスターとして、ふりかえりの1回1回を気持ちよく終えたいと常に思っています。 だからこそ、チームには何か目に見える「成果」を持って帰ってもらいたい! そうした思いの中で、なんとなく振るわないふりかえりの終盤に、焦るように、祈るように「じゃあ、ここから何かTryにできることは?」と問いかけたことも数知れず......

ただ、無理にTryを出そうとして良かった思い出はあまりなく。。。 何が正解かわからず、不安定なふりかえりを繰り返すうちに、ふと思うことがありました。

Tryが出ないと、良いふりかえりとは言えないんだろうか?

Tryを求め、Tryに囚われる

Tryを考えるのは大事。でも、それが全てではない

誤解を招かないように最初に書いておきますが、ここまで書いてきたように、チームの探究につながるTryを考えることには大きな意味があります。 スクラムガイド2020の公式日本語版Open in new tabにも、

スプリントレトロスペクティブの目的は、品質と効果を高める方法を計画することである。

とはっきり書かれています。

また、チームはスプリントがどのように進んだのかを、個人・相互作用・プロセス・ツールなどの観点から検査し、上手くいったことや遭遇した問題、その解決について話し合います。そのうえで、チームの効果を改善するために「最も役立つ変更を特定」する、と書いてあります。

ただし、スクラムガイドにKPTやTryという言葉が出てくるわけではありません。求められているのは、品質と効果を高める方法を計画し、役立つ変更を特定することです。Tryの付箋は、その結果を表す方法のひとつにすぎません。

ふりかえりは単に「こんなことあったね」「いい話ができたね」と話すだけの場ではありません 。一方で、Tryの付箋を作ること自体が目的でもありません 。私は、この二つを分けて考えた方がいいと思っています。

Keep、Problemは、すべてTryの材料?

KPTに限らず、ふりかえりをやっていると、こんな気持ちになることはありませんか?

  • よかったこと(keep)Aがある => ここからTry Aを作れないかな?

  • 課題や問題(Problem)Bがある => ここからTry Bを作るとしたら何が出せるかな?

並ぶ付箋それぞれに対して、どうにかTryを見いだせないかと考えてしまう。 おそらく「この時間の中で何かしらTryを1つは持ち帰らなきゃ!」という気持ちから、目の前の付箋が全てTryの材料のように見えてしまう。そんな気持ちです。

しかも、スクラムガイドが求めているのは、チームの効果を改善するために、最も役立つ変更を特定することです。 そのため、「Keepから考えるべきか?」「いや、Problemから絞り出したほうが効果的か?」と頭を悩ませてしまいます。

ただ、この「チームの効果を改善するために、最も役立つ変更を特定すること」って、そもそもすごく難易度の高いことです。 なので、いくら頑張っても、最高のTryを毎回見つけるなんてことはできない。特に、結成したてのチームならなおさらです。

その状態で「Tryを出そう!出さなきゃ!」と焦ってしまうと、うまくいかないどころか、ふりかえり自体が持つ、「対話や気づきを生む力」を損なってしまう気がしています。

Tryが出なくても、「価値ある変化」は起こりうる

ふりかえりには「未来をよりよくするTryを見つける」こと以外にも、たくさんの価値があると考えています。 それは例えば、

  • 皆で一度立ち止まって、自分たちの現在位置や状況を見直すこと

  • 自分たちの頑張りや成果を称えあい、感謝しあい、労いあうこと

  • 互いの気持ちや考えを開示しあうことで、チームの関係性を向上させること

  • 自分たちの実現したい未来や目標について、思いを馳せること

ふりかえりを、こういった機会としてとらえ、活用する。 たとえTryの付箋が出なかったとしても、チームにポジティブな影響が表れれば、ふりかえりには大きな価値があると考えています。

例えば、ふりかえりエバンジェリストである森さんが公開されている「ふりかえりナビOpen in new tab」には、「アクションが出せないことがあり不安です」という悩みに対して以下のように書かれています。

単純にアクションを作る前にふりかえりが時間切れになってしまうのであれば、やり方をみなおしましょう。なお、話が盛り上がりすぎてアクションが出なかった場合があっても大丈夫です。共通の話題・問題について話し合いをした、という行為がチームに新たな行動をもたらします。

たとえTryの付箋が出なくても、チームで立ち止まって話し合ったことが、その後の新たな行動につながる場合があります。 これ、すごくすごく大事な考え方ですよね。

例えば、チームのなかでこんなKeepが出たとします。

「最近、困ったときにチーム内で相談しやすくなった」

ここから話が盛り上がり、以下のような対話が生まれたとします。

  • 「具体的に以前と何が違うように感じる?」

  • 「えっと、そういえば最近、誰かが困ってるって言ったときに、すぐ解決策を言うんじゃなくて、まず話を聞くようになったなって」

  • 「それ、今のチームの良いところかもね」

  • 「こういう関わり方はこれからも大事にしたいね」

いい対話ですよね。

ここから探究の問いを重ねて、チームの長所をさらに伸ばすTryを見いだせるかもしれませんし、逆に、明示的なTryまでは出せないかもしれません。ただ、たとえ有効なTryの付箋が出なかったからといって「この対話自体が無駄」なんてことは全然ないんです。 今回の対話を通して、チームは

「自分たちは、お互いが困ったときにこういう関わり方を大切にするチームなんだ」

ということに気づくことができました。

誰かが困っている場面に出会ったとき、このふりかえりで話したことを思い出す人がいるかもしれない。 これまで無意識にやっていた行動が、「Goodなアクション」としてチーム内で認知された結果、今後、より意識して行う人が出てくるかもしれません。

明示的なTryの付箋が出てこなくても、この対話によって、チームにはすでに小さな変化が起き始めています。 そう考えると、Keepはチームが自分たちのことを知り、育っていくための「糧」でもあると言えそうです!

逆に「Try絶対出さなきゃ!」という考えがチームを支配した結果、先ほどの建設的な対話が抑制されてしまったら、非常にもったいない!

こうした、良いふりかえりの場を重ねることで、チームは自分たちの長所に自覚的になれます。

  • 最初は全然意見を言わなかった人が、少しずつ自分から話すようになった。

  • Problemが出ると誰の責任かを探していたチームが、「仕組みとしてどう対処できそう?」と話せるようになった。

  • 開発メンバーの行動に、自然と感謝を伝えるようになった。

たとえTry出しに使えなかったとしても、こうした変化は、チームの関係性の向上や成長へと確実に繋がっていきます。

このように、Tryという明示的な成果物だけが、ふりかえりの価値ではない と、私はそう考えています。

ふりかえりも、チームと一緒に育っていく

改めて、Tryの付箋が出なかったからといって、そのふりかえりが失敗だったとは限りません。 一方で、いい対話ができたらそれだけでOK!な場でもありません。立ち止まって得た気づきを、少しずつチームのより良い変化へつなげていくことが重要です。

とはいえ、先にも書いた通り、最初から毎回「チームにとって最も役立つ変更」を見つけるのは至難の業です。

まずは、忙しい中でも皆で一度立ち止まれるようになること。

次に、少しずつ、自分の考えや気持ちを安心して話せるようになること。

自分たちの良いところや課題について、チームで対話できるようになること。

そして、その対話から自分たちに必要な変化を見つけ、実際に試し、その結果をまたふりかえられるようになること。

そのプロセスを経て、チームと共に、ふりかえり自体も少しずつ育っていくのだと思います。

ふりかえりナビOpen in new tabでも、いきなりプロセスのカイゼンを目指すのではなく、チームの状態に応じて、まず「立ち止まる」こと、次に「チームの成長を加速する」こと、そのうえで「プロセスをカイゼンする」ことが紹介されています。

また、ふりかえりそのものを定期的にふりかえり、「今回のふりかえりはどこが良かったか」「次はどう変えてみるか」を考えることも、ふりかえりを育てる上で重要です。 もしチームにスクラムマスター的な立場のメンバーがいるのであれば(いや、いなくても!)、ふりかえりの「場づくり」や「問いかけ」を学び、実践してみるのも非常に有効だと思います。

つまり、大事なのは、 「今日もちゃんとTryの付箋を出せたか?」という軸だけで、自分たちのふりかえりを評価しないこと!

毎週/毎月のふりかえりで交わした言葉や対話は、すぐにTryという形にならなくても、決して無駄ではありません。 その対話を通じて、お互いへの理解が深まった、以前より率直に話せるようになった、「次はこうしてみようかな」と、誰かの行動が少し変わった......そんな小さな変化から、チームもふりかえりも、一緒に育っていきます!

ぜひ「今日はTryの付箋を出せたか?」だけではなく、「今日のふりかえりで、チームにどんな変化が起きただろう?」 という観点でも、自分たちのふりかえりを眺めてみてください!

おわりに

「KPTで、KeepからTryを出すのって難しくないですか?」

ふと頭をよぎったこの問いには、自身の思考のクセや「ふりかえりではTryを出さないといけない」という囚われが隠れていたように思います。

ここまで全三回書いてきましたが、「KeepからTryを出せない」という最初の問いに、ひとつの正解があるとは思っていません。 ただ、この記事を書く過程で、私自身は以前よりKeepの付箋をより面白く、そして興味深く見られるようになった気がします。

Keepは、ただ「続けたいこと」を書く場所ではありません。

自分たちが上手くできていることを知り、なぜ上手くいったのかを探究する。 そこからすぐにTryは出てこないかもしれませんが、それらは、チームが自分たちの強みや変化に気づく、良いきっかけになるはずです!

なにより、本来ふりかえりはチームにとって「楽しい学びの場」であるはずです。書き出したKeepは、チームの変化と成長の大きなヒント。これからも、Tryを出すことだけに囚われず、Keepから始まる豊かな対話を大切にしていきましょう!

この連載「スクラムマスターが語るKPTの課題、なぜKeepからTryが出ない?」を通して、ふりかえりの本質的な価値について深く考えるきっかけとなれば幸いです。全三回、お付き合いいただきありがとうございました!

それでは、また次の記事でお会いしましょう!

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この記事を書いた人

大和 拓朗
大和 拓朗
2018年にメンバーズに中途入社。Webアプリケーションエンジニアとして開発を行いながら、チームへのスクラム導入・推進役を担当。2022年に、よりスクラムに精通した人材となるべくCertified ScrumMaster®の資格を取得。現在はスクラムマスターとして社内のアジャイル文化醸成を行いつつ、クライアント向けにチームの立ち上げやスクラム導入支援を行っています。
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