渡り鳥の編隊戦略に学ぶフォロワーシップ|小さなリーダー経験がチームを強くする理由
はじめに
プロジェクトを推進する上で、「リーダーシップ」の重要性は誰もが認識していることだと思います。しかし、そのリーダーシップを真に機能させ、チームの力をさらに飛躍させる「もう一つの翼」があることを知っていますか?
それが “フォロワーシップ” です。
ある研究(※1)では 「組織の成果の8割はフォロワーがもたらす」 とも言われています。いくら強いリーダーでも、チーム内にフォロワーが存在していなければプロジェクトを成功に導くことは難しくなるでしょう。この記事では、リーダー以上に重要な「フォロワー」として、あなたやあなたのチームメンバーが活躍するための最初の一歩を示します。
ターゲット
- チームのためにもっと貢献したいけど、何をすればいいか分からない方
- メンバーの主体性を引き出し、もっと一体感のあるチームを作りたいと考えているリーダーの方
- リーダーに任せになりがちで、「受け身な雰囲気」を変えたいと感じている方
- 会議や意思決定の場でリーダーや中心となるメンバーばかりが話していて、その他メンバーの沈黙が多いチーム
この記事で語ること・得られるもの
- リーダーを支え、チームの成果を飛躍させる「フォロワーシップ」の意義
- 会議で「受け身なメンバー」から「頼れるフォロワー」に変わるための、具体的なアクション
- 「ファシリテーションへの挑戦」という小さな一歩から、チームへの貢献を実感し、成長するための方法
渡り鳥のV字編隊に隠された「協働関係」
ふと空を見上げた時、渡り鳥が美しいV字の編隊を組んで飛んでいるのを見かけたことがないでしょうか?実はあの独特の飛行形態には、非常に合理的な戦略に基づいた、リーダーシップとフォロワーシップの協力関係があります。
先頭を飛ぶ鳥が力強く羽ばたくと、その翼の後ろに「上昇気流」が生まれます。後続の鳥たちは、この見えない“追い風”に乗ることで、最大で70%もエネルギーを節約できると言われています。
これは、後続の鳥たちの高度な技術と集中力があって初めて可能になる芸当です。リーダーの意を汲み、安定した編隊を保って追従することで、群れ全体の推進力が最大化されます。決して、ただなんとなく後をついて回っているだけではないのです。
まずリーダーの、チームを推進させるための献身的なアクションがあり、その後ろで、フォロワーが、リーダーに対する巧かつ主体的な支援を行う。この 「先導するもの」と「導かれるもの」の協力体制こそが、彼らが何千キロもの過酷な旅を乗り越える原動力なんです。
会議の「先頭」に立つファシリテーターの不安
この話を、私たちの日常業務に置き換えてみましょう。 例えば、チーム会議のファシリテーター。その役割はまさに編隊の先頭を飛ぶ鳥と同じ、チームの進むべき方向を指し示しつつ、効果的な場の流れを生み出すリーダーです。
そして新任リーダー必見|ファシリテーションから始めるリーダーシップの第一歩!の記事にも書かれているように、ファシリテーターの頭の中では、会議の前後を含め、常に数多くの思考が渦巻いています。
ファシリテーターは以下のような働きかけを通じて、チームがより良い改善策を考えられるように支援します。
- レトロスペクティブの目的とゴールを冒頭で明確に伝える
- アイスブレイクで空気をほぐし話しやすい場をつくる
- 自分の声や表情にも明るさを加え心理的安全性を高める
- miroなどのホワイトボード環境を整えて意見を出しやすくする
- チームの状況に合ったふりかえりフレームを選ぶ
- 投票機能などを活用して関心が高いテーマを可視化する
- 「何が原因ですかね?」など、原因探究を促す問いを投げかける
- あえて自らは沈黙し、参加者同士の対話を活性化する
- TRYを具体化する問いを投げかけ「具体的な行動」に着地させる
- こうした動きが自分不在でも継続するよう、場づくりをチームに委ねていく
- etc...
上記はふりかえりのファシリテーションの例ですが、議題を整理し、議論を導き、時間内に結論を出す。その背後には、見えないプレッシャーや不安が常に存在します。
- 「みんな、ちゃんと議論についてきてくれているだろうか…?」
- 「この方向性で話を進めて、本当に正しい結論にたどり着けるのか…?」
- 「自分がうまくやらないと、チームの貴重な時間を無駄にしてしまうかもしれない…」
- 「この問いかけをしたら、混乱なくチームの議論を引き出せるだろうか…?」
先頭の鳥が、広大な空でたった一人、強風の抵抗を受けながら感じるであろう心細さ。リーダーとしてのファシリテーターもまた、チームを正しく導けているか、その意思決定に自信が持てず、同様の不安を感じることがあるのではないでしょうか。
「メンバー」から「フォロワー」へ。リーダーを助ける翼を持つ
そんな時、他のチームメンバーはどうあるべきでしょうか。 ただ静かにリーダーの話を聞き、指示を待つだけの受け身な「メンバー」では、リーダーの負担は増すばかりです。あらゆる不安と負担を一人背負ったリーダーは疲弊し、チーム全体の推進力は落ちてしまいます。やがて、空気抵抗を受け続ける先頭の鳥は、力尽きて墜落してしまうでしょう。
ここで重要になるのが、フォロワーとしてのマインドや振る舞い - “フォロワーシップです。
フォロワーは、単なる追随者ではありません。リーダーの意図を汲み取り、目標達成のために主体的に考え、リーダーを助け、時には建設的な提言も行う「頼れる伴走者」です。
- 議論が停滞したら、新たな視点を提供してみる。
- リーダーが見落としている点があれば、確認を促したり、補足情報を共有したりする。
- 「A案も良いですが、B案にはこういうメリットもありますね」と、意思決定の材料を増やす。
こうした行動が、リーダーの不安を和らげ、より良いゴールへとチームを導く強力な追い風となります。
フォロワーシップの見つけ方:「小さなリーダー体験」のススメ
「フォロワーになれと言われても、具体的に何をすれば…?」 そう感じる方も多いかもしれません。そのマインドセットを獲得するための、最も効果的で簡単な方法。それは 「一度、リーダーの景色を経験してみる」 ことです。
それにうってつけなのが、先ほど例に挙げた会議のファシリテーター。誰でもすぐに飛び込める 「小さなリーダー体験」 です。
一度でもファシリテーターを経験すれば、これまで見えなかったものが見えてきます。「なるほど、ここで発言がないと、こんなに不安になるのか」 「時間配分って、こんなに難しいんだな」 「こういう合いの手や質問は、すごく助かるな」
この体験こそが、あなたの中に眠るフォロワーシップを広げるきっかけになります。リーダーの視点を得ることで、フォロワーとしてどう動けばリーダーを効果的に支えられるのか、そのヒントが具体的に見えてくるはずです。
急にやってみろと言われても、「いきなりファシリテーションなんてできない!どうすればいいの?」と思うと思いますが、その大きな不安こそ、普段リーダーが背負っているものの大きさなのです。チームでそれを理解し合うため、リーダーを支えるフォロワーシップの一端を掴むため、ぜひ勇気を出して挑戦してみてください!
全員がリーダーであり、フォロワーであるチームへ
渡り鳥の賢いところは、一羽のリーダーにだけ負担を押し付けないことです。彼らは、先頭の役割を次々と交代します。疲れたリーダーは後方で翼を休め、今度はフォロワーとしてリーダーを支えつつ、仲間の作る上昇気流に乗り、力を蓄えます。
この戦略を、チームにも取り入れてみとどうなるか。
例えば先ほどのファシリテーターの例では、その「担当をチーム内で持ち回りにしてみる」という方法が考えられます。そしてそれだけで、チームは劇的に変わる可能性があります。
- 負担の分散: 特定のメンバーへの負荷の偏りを防ぎ、チーム全体の持続可能性を高めます。
- 視点の獲得: 全員がリーダーの視点を体験することで、自然とフォロワーシップが育ちます。
- 相互理解の深化: お互いの立場を理解することで、より円滑で建設的なコミュニケーションが生まれます。
全員が「リーダーの景色」を知り、誰もが「最高のフォロワー」になれる。そんなチームであれば、変化の激しい現代においても、どんな困難な課題に直面しても、しなやかに、そして力強く乗り越えていくことができると思います。。
次の会議で、あなたも一度チームを導く「リーダー」として、編隊の先頭に立ってみませんか?きっとその一歩が、あなた自身とチームを、より高い場所へと羽ばたかせるきっかけになるはずです!
※1:
書籍名: The Power of Followership: How to Create Leaders and Lead Followers (1992年)
邦訳: 『指導力革命―リーダーシップとフォロワーシップ』(1993年、産能大学出版部)
この記事を書いた人

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