スクラムマスターって何する人?「特殊解」を生み出し続けるチームのつくり方
この記事は「BEMA Lab Advent Calendar 2025」の10日目の記事です。
※本アドベントカレンダーの10日目の投稿となります。
はじめに
「スクラムマスターって何をする人なんですか?」
スクラムマスターとして活動をしていると、本当に頻繁にこの質問を耳にします。私がこの質問を受けた時はいつも「良いチームをつくる人」と答えていました。
しかし、そもそも「良いチーム」とは何でしょうか?
この記事では「良いチーム」の定義を深掘りすることで、スクラムマスターという役割のイメージをよりクリアにしていきたいと思います。あくまで私見ではありますが、「スクラムマスターって何する人?」という疑問を持つ方にとって本記事がその役割を理解する一助となれば嬉しいです!
スクラムマスターは「特殊解を生み出し続けるチーム」をつくる人
私が考える「良いチーム」とは、一般解をただ当てはめるのではなく、そのチーム・組織が置かれている独自のコンテキストをメタ認知し、自分たちだけの「正解」を生み出し続けられるチームです。
そして、スクラムマスターの役割は、まさにこの「特殊解を生み出し続けるチーム」をつくることにこそあると信じ、日々活動しています。
なぜ「特殊解を生み出し続けるチーム」をつくる必要があるのか?
現代は複雑で変化の激しい「VUCA」な時代だと言われています。AIの進化によって、この複雑性はさらに増大していくことが予想されるでしょう。
このような状況では書籍などで紹介されるような、いわゆる「一般解」の価値は低下し、逆にチームが自ら生み出した特殊解の重要性が増してくるのではないかと考えています。
「他のチームで成功事例はないんですか?」
スクラムマスターとして関わる現場などで、このように聞かれることがよくあります。
もちろん、成功事例の中に参考にできる要素はあるかもしれません。しかし、その成功の背景には、例えば、チームメンバーの性格・メンバー同士の関係性、プロダクトの性質、チームが所属する組織文化等々...極めて複雑なコンテキストがあります。
それらを無視して表層的なHOW(やり方)だけを真似たところで上手くいく可能性は高くありません。それどころか、その行為はチームが本当に向き合うべき問題の真因を覆い隠し、問題を深刻化させてしまう可能性すらあると思っています。
私は、このような不確実な状況に対して「こうすればうまくいきますよ」と安易に一般解を与えることはできるだけしないようにしています。
チーム自身が問題に深く向き合い、真因を探り、その文脈における「正解」を導き出せるよう場を設けたり、問いかけを投げたりします。
その結果、教科書的には「それでいいの?」と思ってしまうようなアクションをチームが取ることもあります。しかし、チームが熟議を尽くして出した結論であるとなぜか不思議とうまくいくんですよね。このような場面に私は何度も遭遇してきました。
チームが「特殊解」を生み出し続けられるようになった時、そのチームはまさに不確実性の波を軽やかに乗りこなしている状態だと言えるのではないでしょうか。
「特殊解を生み出し続けるチーム」をつくるためにやっていること
私が普段「特殊解を生み出し続けるチーム」をつくるために、スクラムマスターとして実践していることをまとめてみました。
⏸️ 定期的に立ち止まる機会をつくる
特殊解を生み出すためには、自らが置かれた状況を冷静に把握し、チームあるいは組織独自の「変数」を見つける必要があります。日々の作業に追われ、全力疾走する状況の中でこれをやるのは至難の業です。
そこで、チームが一旦作業の手を止めて「立ち止まる機会」を作ることをスクラムマスターとして意識しています。
スクラムには、スクラムイベントという形でこの立ち止まる機会が巧みに組み込まれています。この機会を有効に使えるようチームにティーチング・コーチングを行うことで、チームが立ち止まることができるような環境を整備しています。
💡 自分の中の正解を伝えるのではなく、チームにとっての正解を導く
スクラムマスターは「正解」を知っているわけではありませんし、チームに与えるべきでもないと考えています。
場を設計し、問いかけによってメンバー同士の対話を促すことで、チームにとっての「正解」を導き出せるようにファシリテートする役割に徹します。
この時重要なのは、自分の中にある「こうしたい」という思いをメタ認知することだと思っています。
自分の中の考えに固執してしまうと、それは「問いかけ」ではなく「誘導」になってしまいチームの自律的な思考を阻害してしまいます。
自分の思考を客観視し、それを一旦脇に置くことで、初めてニュートラルな立場でチームにとっての最適な「特殊解」を導く支援ができます。
🤝 関係の質を高める
特殊解を生み出すには「心理的安全性」が不可欠だと思っています。
心理的安全性とは「チーム内で自分の考えや感情を表明しても、罰せられたり、恥をかかされたりしないと信じられる状態」です。
関係の質を高め心理的安全性が担保された環境を作れば、「自分だけがそう思っているかもしれない」という不安を乗り越えて率直な意見や懸念を表明しやすくなり、特殊解を生み出し続ける状態を促すことができると考えています。
関係の質を高めるためにチームビルディングワークを主導したり、メンバー同士が頻繁に対話できるような場づくり、仕組みづくりを継続的に行っています。
アジャイルの本質は「よりよい開発手法を見つけ出そうとする」ことにあるのではないか
アジャイルソフトウェア開発宣言には以下のような一節があります。
私たちは、ソフトウェア開発の実践あるいは実践を手助けする活動を通じて、より良い開発方法を見つけだそうとしている。
アジャイルは、ウォーターフォールが主流だった時代に「より良い開発方法を見つけ出そう」という思いを持った17人のエンジニアが生み出したムーブメントです。
私は、アジャイルの本質は、この「より良い開発方法を見つけ出そうとする意志」にあると信じています。
そして、このマインドセットをチームが真に身に付けた時、そのチームには特殊解が生み出され続けているのではないかと思っています。
さいごに
「スクラムマスターって何する人?」という問いに対して、「特殊解」をキーワードに私自身の考えを整理してみました。この問い自体も唯一絶対の「一般解」は存在せず、今回提示した私の考えも特殊解に過ぎません。あくまで一つの見解として受け止めていただけると嬉しいです。
ただ、スクラムマスターの役割はその性質上、曖昧になりがちであり、それゆえにチームや組織内で期待値のズレが生じてしまいやすいこともまた事実です。
この記事が、スクラムマスターの役割の理解を促し、あなたのチームや組織における「より良い開発方法」を見つける一助となれば幸いです。
この記事を書いた人

What is BEMA!?
Be Engineer, More Agile




